皮膚科・美容皮膚科オンライン診療の導入効果｜ハイブリッドとオンライン完結で広がる可能性

「仕事が忙しくてクリニックに行く時間がない」「小さな子どもがいてなかなか通院できない」―多くの患者さんが、そうした理由で皮膚科での治療を諦めているのが現状です。これは患者さんにとっての機会損失であると同時に、クリニックにとっても、潜在的な患者さんを逃しているという深刻な課題に直結します。

オンライン診療は、この課題を解決するための強力な手段です。単に患者さんと画面越しで話すだけのツールではありません。通院のハードルを下げることで、これまでにはなかった「新しい患者接点」を生み出し、クリニックの経営改善と差別化につながる重要な戦略なのです。このコラムでは、皮膚科の治療メニューとオンライン診療の親和性、そしてその導入がもたらす具体的なメリットについて、詳細に解説していきます。

治療メニューとオンライン診療の親和性：患者満足度と経営効果の両立

皮膚科の治療は、一度で完結するものではなく、継続的なケアが求められることがほとんどです。オンライン診療は、この継続的なケアを強力にサポートし、患者さんの満足度とクリニックの経営効果を同時に高めます。

ニキビやニキビ跡の治療

ニキビやニキビ跡の治療ではオンラインで肌の状態を定期的にチェックすることで、患者さんが治療を中断することなく続けられます。これは、患者さんの利便性を高めるだけでなく、クリニックのリピート率向上とLTV（顧客生涯価値）の改善に直結します。対面ではなかなか再来院しにくい患者さんにも、オンラインで定期的なフォローアップを行うことで、長期的な関係を構築できるのです。オンラインで気軽に相談できる環境は、患者さんの治療へのモチベーションを維持し、より早く治療効果を実感する手助けにもなります。

シミ・肝斑治療

シミ・肝斑治療では対面でのレーザー施術の前にオンラインでカウンセリングを行うことで、来院前の患者さんの不安を解消し、来院率を高める効果が期待できます。患者さんは、自宅にいながら複数のクリニックのカウンセリングを受けることができ、納得した上で来院を決めることができます。治療後の経過観察や、内服薬・外用薬の処方をオンラインで手軽に行うことで、患者さんの安心感と満足度が飛躍的に高まり、結果として口コミや紹介につながる可能性も生まれます。

AGA

AGAなどの長期的な治療にもオンライン診療は不可欠な存在です。AGA治療薬の定期処方は、オンライン診療と非常に相性が良くオンライン診療のみでも完結でき、患者さんは遠方からでも無理なく治療を継続できます。これにより、診療圏を拡大し、新規患者を獲得するきっかけとなります。オンラインで事前に問診やカウンセリングを行うことで、対面診療時の時間を短縮し、業務効率化にも貢献します。これにより、限られた時間の中でより多くの患者さんを診ることが可能になり、クリニック全体の生産性も向上します。

市場の動向と厚生労働省が示すオンライン診療の未来

オンライン診療の導入を検討する上で、その市場がどれほどの成長性を持つのか、そして国がどのような方針を示しているのかを知ることは不可欠です。

近年、日本のオンライン診療市場は急速な拡大を見せています。厚生労働省のデータによると、新型コロナウイルスの流行を機に、オンライン診療に対応する医療機関数は急増しました。2020年4月時点で9.1%だった導入率は、2021年4月頃には 15.2％ に増加しました。その後も緩やかな増加傾向にあり、情報通信機器を用いた初診・再診の算定件数も大きく伸びています。

出典：厚生労働省『令和5年1月〜3月の電話診療・オンライン診療の実績の検証』

また、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」は、オンライン診療が対面診療に代わるものではなく、補完的な役割を担うことを示唆しています。特に美容医療においては、問診やカウンセリング(初診)、経過観察(再診)といった段階でオンライン診療を導入し、高度な施術自体は対面で行うハイブリッドなモデルが主流となっています。これは、クリニックが患者さんの安全を確保しながら、オンライン診療の利点を最大限に活用できる、最も現実的な運用モデルと言えるでしょう。

出典：厚生労働省『オンライン診療の適切な実施に関する指針』

科学的エビデンス：遠隔皮膚科（teledermatology）の可能性

オンライン診療の効果を裏付ける科学的な根拠も存在します。多くの美容皮膚科の院長・経営者の方が気になっているのが、オンラインでの診断精度ではないでしょうか。海外では、遠隔地から皮膚科診療を行う「teledermatology（遠隔皮膚科）」の研究が活発に進んでおり、その有効性が示されています。

海外の研究では、遠隔皮膚科（teledermatology）の診断精度は対面診療に劣らないことが示されています。特に、スマートフォン画像を活用した研究では、診断一致度が κ＝0.84 と非常に高い水準を示しており、オンライン診療においても精度の高い診断が可能であることが裏付けられています

出典：JMIR Dermatology Concordance and Accuracy of Teledermatology Using Mobile Phones in the Outpatient Clinic of Jose R Reyes Memorial Medical Center: Cross-sectional Study

また、オンライン診療を受けた患者さんの満足度が高いという研究結果も出ています。「通院の手間が省ける」「待ち時間がない」といったオンライン診療ならではの利点が、患者さんの高い評価につながっています。患者さんの時間的・精神的な負担を軽減することが、治療の継続やクリニックへの信頼感の醸成に大きく寄与すると言えるでしょう。

課題を乗り越え、オンライン診療を成功させるために

オンライン診療の導入には、いくつかの課題も伴います。しかし、適切な対策を講じることで、そのリスクは最小限に抑えられます。

写真診断の限界: 画面越しでは、肌の色調や質感、色素沈着の深さなど、詳細な診断が難しい場合があります。この課題への対策は、オンラインとオフラインの連携を前提とすることです。オンライン相談で大まかな治療方針を提示し、精密な診断や施術は対面で行う、という明確なフローを確立することが重要です。再診はオンライン診療のみで完結する形にすれば継続しやすい治療を実現できます。

セキュリティと運用体制: 患者さんの個人情報や診療情報を安全に管理するシステム、そしてスタッフの運用体制が不可欠です。医療機関専用のセキュリティ基準を満たしたシステムを選定し、院内での運用ルールを明確に定めてスタッフに周知徹底することで、安全な運用が可能になります。また、オンライン診療ツールは、予約システムや電子カルテとの連携がスムーズなものを選ぶことで、より効率的な運用を実現できます。

まとめ：オンライン診療で実現する、新しい皮膚科のカタチ

オンライン診療は、単なる一時的なトレンドではなく、皮膚科の未来を形作る重要なインフラです。これまで通院の壁に阻まれていた患者さんとの新たな接点を作り出し、クリニックの集患・リピート率向上・LTV改善という経営課題を根本から解決する力を持っています。

患者さんの利便性を高めることは、そのままクリニックへの信頼と満足度につながります。初診はオフライン・再診はオンラインのように組み合わせたハイブリッドな診療体制は、患者さんの治療へのモチベーションを維持し、長期的な関係性を築く上で不可欠な要素となるでしょう。また、薬物治療を中心とするニキビ・肝斑やAGAでは、完全にオンラインで診療を完結させることも可能です。これにより、従来の来院圏に限定されず、全国から患者を獲得できるようになります。クリニックにとっては診療圏の拡大と安定収益化につながり、経営戦略上の大きな武器となります。

未来の皮膚科経営は、単に質の高い医療を提供するだけでなく、患者さんのライフスタイルに寄り添った柔軟なサービスを提供できるかどうかにかかっています。今こそ、オンライン診療を導入し、患者さんとクリニックの双方にとってより良い未来を切り拓くときです。

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